特発性正常圧水頭症

現在、認知症の患者さんは約250万人とされています。高齢化が進む中、この数字はさらに増え続けることが予想されています。認知症と聞くと、もう治らない病気と思われる方が多いかもしれません。しかし、治療ができる認知症も存在します。その一つが、“特発性正常圧水頭症”という病気です。

特発性正常圧水頭症(iNPH ; idiopathic normal pressurehydrocephalus)とは

我々の頭の中では、脳の周りに髄液という液体が流れています。この髄液は常に産生と吸収を繰り返しながら一定の量を保っているのですが、何らかの原因で産生と吸収のバランスがくずれてしまうことがあります。そうすると、脳の中の隙間である“脳室”に髄液がたまり、“水頭症”と呼ばれる状態になります。くも膜下出血や、頭部外傷、髄膜炎の後などでこのような状態になることがあり、続発性正常圧水頭症と呼ばれます。しかし、中には原因不明のものがあり、これを特発性正常圧水頭症と呼びます。

特発性正常圧水頭症の3つの症状

認知症歩行障害尿失禁の3つが主症状であり、三徴候と呼ばれています。認知症状は記憶の問題よりも、反応が鈍い、表情がとぼしいといった症状が見られます。歩行状態は小刻みでよちよち歩く、あまり足が上がらない、といったものになります。また、トイレが近くなる、我慢できずに失禁してしまうといった症状も出現します。
これらの症状は、年齢のせいとされて放置されていたり、また他の病気と診断され見落とされている場合もあります。治療を受けても症状が改善しない場合などは、特発性正常圧水頭症が隠れているかもしれません。

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特発性正常圧水頭症の検査

上述のような症状があり、頭部のCTやMRIで脳室の拡大が認められた時、特発性正常圧水頭症を疑います。ただし、高齢の方などでは脳自体が委縮しており、脳委縮による脳室拡大なのか、特発性正常圧水頭症によるものかを判断することが難しいことがあります。そこで、患者さんの背中に細い針を刺して髄液を排出させるテスト(髄液排除試験;タップテスト)を行います。この検査で症状が改善した方は、手術を行うと高い確率で症状の改善が見込めるため、手術をお勧めさせて頂きます。この検査はテスト前後の症状を観察する必要もあり、当院では数日間の入院をお願いしています。

特発性正常圧水頭症の治療

水頭症の治療には、脳室内にたまっている髄液を排出させることが必要です。その方法にはいくつかの種類がありますが、現在ではシャントチューブと呼ばれる管を用いて髄液を腹腔内に流す手術が一般的に行われています。脳室内(頭部)から腹腔(お腹)へ、もしくは腰椎(腰)から腹腔(お腹)へチューブを通して余分な髄液を排出させます(脳室‐腹腔シャント術、腰椎‐腹腔シャント術)。当院では、できるだけ脳を傷つけない方針で腰椎‐腹腔シャント術を第一選択にして治療を行っています。
この手術は全身麻酔で行われますが、手術時間は1時間程度です。チューブは完全に皮下に埋め込んでしまうため外からは見ることはできませんが、よく触ると皮膚の下にチューブを触れることができます。また、髄液を抜きすぎると頭蓋内出血をきたすことがあるため、チューブには髄液が流れる量を調整する“圧可変式バルブ”と呼ばれる部分がつけられています。手術後は症状を見ながら、この圧を調整していきます。
治療にかかる入院期間は1週間から2週間程度です。退院後は外来に通院して頂き、症状を見ながら圧を調整していきます。

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終わりに

特発性正常圧水頭症は、手術で治療できる病気です。高齢の方が多く、手術を受けられることに抵抗のある患者さん、ご家族もたくさんいらっしゃいます。しかし、適切な治療を行うことで本人のみではなく、介護を行うご家族の負担も軽くなるという利点もあります。疑わしい症状があれば、当院 脳神経外科(脳外科)に受診して下さい。